神経伝達に及ぼすニコチンの影響

三須良實*1

ニコチンと神経伝達

1)はじめに

ニコチンは、古典的ニコチン性アセチルコリン(ACh)受容体(nAChR)を介して自律神経節および神経筋接合部伝達を促進するのみならず、中枢神経系諸部位において多くの神経系ニューロンの膜の脱分極を生じるとともに、シナプス前終末部に作用して伝達物質の遊離を促進する。これらの修飾作用はニコチンの精神・行動薬理学的諸効果に関与する1)2)とともに、諸種の内分泌機能を修飾する3)。また、副腎髄質、末梢遠心性神経終末ならびに求心性感覚神経にも作用して、古典的伝達物質のカテコラミン類、ACh のみならず、多種多様な神経ペプチドなどを共同伝達物質候補として遊離し、生体機能に複雑な神経性制御・修飾作用を及ぼすことが明らかになりつつある。

最も広く研究されてきたカテコラミン系に関しては、中枢神経系諸部位において、ニコチンがドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの代謝回転を神経性 nAChR 遮断薬感受性に速め、利用度を高めることは繰り返し報告されてきた1)-5)。ニコチンはまたチロシンからドーパへの合成を促進する5)

1980年代までに報告された結果を概観すれば1)2)、ニコチン投与の用量、時間、回数、方法、部位のちがい、in vitro あるいは in vivo の系かなどによってさまざまな差異を示す事実あるいは nAChR に生じやすい脱感作をつねに考慮に入れておく必要があるものの、おおよそ in vitro の系であればμM 濃度程度まで、また in vivo の系であれば 1 mg/kg 濃度程度までのニコチンは用量依存性に、ある程度まで Ca2+-依存性に、またある程度まで神経性 nAChR 遮断薬感受性に多様な伝達物質および伝達物質候補を遊離するといえる。ラット、ネコ視床下部におけるノルアドレナリン1)、ラット線条体におけるドパミン、ラット海馬における ACh、γ-アミノ酪酸(GABA)2)の遊離などがその代表的な例である。

2) ニコチンの伝達物質遊離促進作用機序モデル

図-1は Wonnacott ら2)により提唱されているシナプス前 nAChR を介する伝達物質遊離促進作用機序モデルである。同受容体は、神経筋接合部の場合と同様に5量体膜蛋白であり、同神経性蛋白はαおよびβの2種のサブユニットから構成されている。ラット線条体における[H]-ドパミン、海馬における [H]-ACh、[H]-GABA の遊離を促進するニコチンそのほかの作動薬および競合的拮抗薬のジヒドロ-β-エリスロイジン(DHβE)はα-サブユニットに結合するが、神経筋接合部とは異なって、α-ブンガロトキシンは神経性α-サブユニットに結合しない。

一方、ネオスルガトキシンおよび神経性ブンガロトキシンの作用点は、神経筋接合部とは異なって、この部位の近傍にあると考えられる。筋性 nAChR と同様に、作動薬結合は神経性受容体蛋白のアロステリックな変化を生じ、陽イオンの神経終末への流入を起こすと考えられる。この思考は、ニコチン性応答が筋性 nAChR のイオンチャネルに非競合的に作用するヒストリオニコトキシンにより抑制される事実により支持される。非競合的節遮断薬のメカミラミン、ペンピジンもこのチャネルに作用すると考えられる。ニコチン応答は一般にテトロドトキシン(TTX)-非感受性である。これは電位依存性 Naチャネルはニコチン応答に関与していないことを意味する。ニコチン性チャネルを介する陽イオン流入に基づく局所的脱分極が Ca2+-依存性の伝達物質遊離をもたらす。Ca2+除去はある程度までニコチン応答を抑制し、したがってニコチンにより生じる伝達物質遊離は、神経刺激による場合と同じ Ca2+-依存性過程を介するものであるという。

一般に、ニコチン性応答の立体特異性は検討されない場合が多く、検討された場合においても、高濃度になると特異性は失われる。ニコチン性応答が nAChR を介しているというためには、その立体特異性をつねに証明する必要がある2)6)7)。さらに、関与する nAChR の緊張性機能、つまり特異的拮抗薬単独投与時のニコチン応答とは反対方向の作用を証明することが望ましい7)

そのほか、1994年までに報告されたニコチンの伝達物質・同候補、共同伝達物質・同候補の遊離作用を概観すれば以下のようになる。

3) ニコチンと中枢神経系伝達物質

ラット線条体表面灌流切片において6)、ニコチン(0.1〜10μM)は内因性ドーパをドパミンと同様に、濃度依存性、メカミラミン-感受性、Ca2+-依存性、TTX-非感受性、立体特異性に遊離する。意識下ラット線条体の微量透析系において7)、プローブを介して灌流したニコチン (100〜300μM)は内因性ドーパをドパミンと同様に、濃度依存性、ある程度までメカミラミン-感受性、ある程度まで Ca2+-依存性、ある程度まで TTX-感受性に、また立体特異性に遊離する。

ノルアドレナリンなどの伝達物質遊離に関して、意識下ラット視床下部室傍核微量透析系において8)、ニコチン(0.5mg/kg まで, i.p.)は、ニコチン誘起性副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌の仲介物質であるノルアドレナリンを用量依存性、末梢投与のメカミラミンに感受性、ヘキサメソニウム(C)に非感受性に遊離する。反復投与は急性脱感作を示す。対照的に、ニコチン前処置は、α-遮断薬のヨヒンビンによるノルアドレナリン遊離に影響しない。これらの知見は ACTH 分泌に関するものと一致するという。意識下ラット海馬微量透析系において9)、ニコチン(0.2〜0.8mg/kg, s.c.)1回投与はノルアドレナリンを用量依存性、末梢投与のメカミラミンに感受性、Cに非感受性に遊離するとともに、ドパミン代謝物の 3,4-ジヒドロキシフェニール酢酸(DOPAC)とホモバニリン酸(HVA)レベルを高める。最高用量はセロトニン(5-HT)代謝物の5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)レベルをかなり遅れた時点において高め、ドパミン遊離にはさらに高用量を要し、またこれらの作用もメカミラミン-感受性である。1回目投与 150 分後の2回目投与(0.8 mg/kg)は脱感作を示さないという。ラットにおいて10)、ニコチン(0.8 mg/kg, s.c.)1回投与はノルアドレナリン性神経細胞体のある青斑核における TH の mRNA を2〜6日後に増大するが、ドパミン性神経細胞体のある黒質、腹側被蓋野のそれには影響しない。これはその後の上行性背側ノルアドレナリン性神経束の終末部位における TH 活性を時間依存性に4週後まで亢進し、この亢進は、機能的に、意識下ラット海馬微量透析系におけるノルアドレナリン遊離能の増大を伴う。この一連の知見は、250μM のニコチンの局所的海馬内灌流によっては見られないという。細胞体・樹状突起にある nAChR を介する作用と考えられる。ニコチン(1.76 mg/kg, s.c.)あるいは生理的食塩水(生食)を慢性投与(2回/日、10 日間)したラット線条体切片において11)、ニコチン慢性投与は [H]-各種伝達物質の蓄積、基礎的および高 K+-誘発性遊離に影響しない。ニコチン(1-100μM)表面灌流は用量依存性に [H]-ドパミン、[H]-5-HT を遊離し、ニコチン慢性投与群切片における同遊離増大は、生食投与群切片における同遊離増大に比し、より大である。同ニコチン表面灌流は用量依存性に [H]-ノルアドレナリンをも遊離するが、同遊離増大はニコチン慢性投与により影響されない。ニコチン(1〜100μM)表面灌流は [H]-ACh 遊離に一定の作用を示さないところから、表面灌流のかわりにニコチンインキュベーションを行った場合のニコチン慢性投与群切片における[H]-ACh 遊離は、生食投与群切片に比し、より小であったという。

ラット線条体切片からの ACh 遊離に関して12)、ニコチン(100μM)は、6-ヒドロキシドパミン i.c.v. 前処置あるいは D-受容体遮断薬のスルピリド存在下に、[H]-ACh 遊離を促進するが、一方無処置切片からの ACh 遊離に無作用である。関与する nAChR は線条体内のコリン作動性インターニューロン上に存在し、ニコチン誘発性の ACh 遊離は TTX により抑制されることから、ニコチンは同インターニューロンの細胞体・樹状突起部位に作用すると考えられる。ラット前頭葉皮質、海馬、線条体微量透析系において13)、ニコチン(0.5 mg/kg, s.c.)はフィゾスチグミン存在下に内因性 ACh 遊離を3部位において増大するが、コリンレベルを変化させなかった。ニコチンは前2部位において ACh 遊離を2相性に制御するという。

ラット視床下部切片からの高 K+-誘発性内因性ヒスタミン遊離に関して14)、 ACh は同遊離をアトロピン-感受性に抑制し、一方ニコチンは同遊離を C-感受性に促進する。ニコチン応答は、全視床下部切片およびヒスタミン性ニューロンの細胞体を含まない前視床下部切片において同じであるところから、nAChR はヒスタミン性ニューロン終末に存在すると考えられる。

グルタミン酸関連の興奮性伝達物質の遊離に関して15)、モルモット線条体切片において、ニコチン(6.2〜62μM)は電場刺激(20 Hz)による D-[H]-アスパラギン酸遊離を濃度依存性に、ツボクラリン-感受性に促進するが、自発性遊離には影響しない。また、意識下モルモット頭頂葉硬膜外カップ法による自発性 D-[H]-アスパラギン酸遊離系において、ニコチン(0.9 mg/kg, s.c.)は同遊離をメカミラミン-感受性に促進するという。ラット青斑核において16)、ニコチン(50〜400μg/kg, i.v.)は用量依存性に発火率を増大し、この増大は N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)-拮抗薬の MK 801 により 60% のニューロンにおいて遮断され、非-NMDA 拮抗薬のキヌレイン酸により予防される。ニコチンにより傍巨大細胞網様核由来の神経終末から遊離された興奮性アミノ酸が間接的に青斑核発火を増大すると考えられる。ラット前頭・頭頂葉および尾状核シナプトゾームにおいて17)、ニコチン(20〜200μM)は L-[H]-グルタミン酸自発性遊離をおおよそ濃度依存性に増加するが、メカミラミン-感受性および Ca2+-依存性は見られないという。意識下ラット線条体そのほかの脳部位の微量透析系において18)、局所灌流した高濃度のニコチン(1〜100 mM)はキヌレイン酸-感受性にグルタミン酸を遊離するとともに、ドパミンそのほかの生体アミン類を遊離し、同遊離はすべてキヌレイン酸-感受性であるという。おそらくニコチンの毒性作用発現に関連した知見と考えられる。一方、ラット海馬において19)、ニコチン(0.8 mg/kg, s.c.)は自発性の内因性グルタミン酸およびアスパラギン酸遊離を抑制するという。

脳における記憶のニューロン回路機能モデルとして、長期増強現象などが注目され、研究が進められている。長期増強の機序に関しては、グルタミン酸性伝達のシナプス前からの伝達物質遊離の増加とシナプス後の受容体の数、感受性の増加が基本となっているが、未知の部分が多い。大脳皮質、小脳、海馬 CA1 野などが標的部位として用いられてきた。他方、Yamamotoらは、モルモットを用い、まず基礎的研究として手綱核20)21) 、ついで海馬歯状回22)において、長期増強におけるニコチンの作用などを検討した。髄条-内側手綱核系において、シナプス前グルタミン酸性入力線維である髄条の単発電気刺激は、内側手綱核の場の電位として、入力線維の活動電位を表わす短潜時の陽・陰2相性の波と、それに続く内側手綱核ニューロンの、外液 Ca2+ 減少により減弱し、非 NMDA グルタミン酸拮抗薬の6-シアノ-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン(CNQX)-感受性の、興奮性シナプス後電位である、主として陰性の電位を生じる。また、1個の内側手綱核ニューロンから陽・陰2相性の単一放電と、単一放電とはかなり形の違う自発放電を記録しえた。ニコチンはμM 濃度レベルにおいてツボクラリン-、C-およびメカミラミン-感受性に、デカメソニウム-非感受性にシナプス後電位を抑制し、自発放電頻度を増加したが、予期に反して、場の電位の潜時は短縮しなかったという。自発放電頻度の増加は、ニコチンの内側手綱核ニューロンに対する興奮作用による。興奮性シナプス後電位抑制は、シナプス前髄条ニューロンからのグルタミン酸遊離の抑制による可能性が残るものの、主にニコチン誘起脱分極による興奮性シナプス後電位の不活性化であろうという20)21)。海馬切片における、歯状回分子層刺激により得られる分子層と顆粒細胞層の場の電位に対して22)、ニコチン(5〜10μM)は2発刺激の2発目刺激に対するスパイク電位を濃度依存性に増強した。この増強は興奮性シナプス後電位の立ち上がり速度の増大を伴わず、したがって、これはシナプス伝達の増強なしの活動電位の発生促進を意味する。また、この増強は GABA-拮抗薬のビククリン-感受性を示したことから、ニコチンは GABA 受容体を介する抑制経路を抑制して活動電位を発生するニューロンの数を増加すると考えられる。重要なことに、ニコチンは貫通線維シナプス伝達においてビククリン存在下に誘発される長期増強を促進した。ニコチンはテタヌス刺激による顆粒細胞の興奮性シナプス後電位の立ち上がり速度の増大をさらに2倍にした。この促進作用は、ニコチンの長期増強の誘導に関与する NMDA-受容体に対する抑制作用によるものではない。おそらく、ニコチンは、シナプス前 GABA-受容体を介するグルタミン酸遊離の減少あるいはシナプス後 GABA-受容体を介する過分極などの、抑制系の抑制を介して長期増強を促進するという。付加的要因として、ニコチンによる Ca2+ 透過性亢進も関与しうるという。また、CA1 野と異なり、歯状回の場合、長期増強後の低頻度刺激による長期抑制は生じにくかったという。

抑制性伝達物質の GABA の電気生理学的研究結果として、鶏胎仔中脳外側螺旋状核切片の全細胞パッチクランプ記録において23)、μM レベルのニコチンはジヒドロ-β-エリスロイジン-、TTX-感受性に、α-およびκ-ブンガロトキシン-非感受性にシナプス後性の抑制性内向き電流を増大するとともに、自発性電流頻度を著増することが知られている。自発性電流は Cl- の平衡電位近くにおいて反転し、これはビククリンにより消失するという。ラット脚間核切片の全細胞パッチクランプ記録においても24)、μM レベルのニコチンはジヒドロ-β-エリスロイジン-、メカミラミン-、C-、TTX-感受性に、シナプス後性の GABA 性自発性電流頻度を著増する。同様のニコチン作用は細胞体つき神経終末標本においても見られ、同様にTTX-感受性である。nAChR は軸索を含む終末前に存在すると考えられる。

近時、抗不安薬のベンゾジアゼピン類と類似作用を有し、GABA-受容体へのベンゾジアゼピン結合を置換する内因性物質(endozepine, diazepam binding inhibitor, DBI)が注目されている。Kuriyama らは、PCR によるマウス DBI のクローニングを行い、ノーザンブロットハイブリダイゼーションにより、初代培養神経細胞ならびに脳におけるニコチンの DBI mRNA 発現に及ぼす影響などを検討した25)-27)。PCR 法により DNA 断片が増幅され、両系において、DBI mRNA が発現した。初代培養大脳皮質細胞において、ニコチンの 24 時間曝露は用量依存性に (1〜100 nM)、 C-感受性に DBI mRNA 発現量を増加したが、対照のβ-actin mRNA の発現量に無作用であった。ニコチンは nAChR を介して DBI mRNA 発現量を増加したといえる。また、ニコチン投与による急性および慢性耐性発現時の DBI mRNA 発現量も有意に増加した27)。この増加はニコチンに特異的というよりは、むしろ、一般的にさまざまな薬物依存の形成および成立過程に DBI mRNA 発現が関与しているというべきであろうという。というのは、マウス大脳皮質の DBI mRNA 発現量は、アルコール依存ならびに禁断症状発現時に著増し、また培養細胞においてもアルコール(50 mM)曝露の時間に依存して DBI mRNA 発現量が増加するからである。これらの増加は、ベンゾジアゼピン作動薬のフルニトラゼパム前処置により消失することから、同受容体を介する作用であるという。

4) ニコチンと副腎髄質等

副腎髄質は ACh を含む分泌物質による Ca2+-依存性のカテコラミン遊離が証明された最初の臓器であり28)、カテコラミン以外の多様な伝達物質候補が共存するところから、ニューロンモデルとして、神経性伝達あるいはそれに及ぼすニコチン作用とその細胞内情報伝達機序の研究の標的器官となってきた。ニコチンはノルアドレナリン、アドレナリン29)-31)をはじめ、関連培養株系の PC 12 細胞からドパミン32) を遊離する。ラットに薬物投与後、麻酔下に摘出した副腎髄質において33)、ニコチン(0.33〜3.3 kg/kg, s.c.)は TH 遺伝子の転写、TH の mRNA および蛋白産生を高め、この作用はメカミラミンおよび C により部分的に拮抗されるという。

神経性伝達に及ぼすニコチン作用の細胞内情報伝達機序については不明な点が多い。PC 12 細胞において32)、ニコチン(100μM)および Ca2+-イオノフォアーの A23187(10μM)は内因性ドパミンを遊離し、これらの遊離はいずれもカルモデュリン阻害薬のカルミダゾリウム(1μM)あるいはアデニレートシクラーゼ阻害薬の 2',5'-ジデオキシアデノシン(10μM)により消失する。アデニレートシクラーゼ活性薬のホルスコリン、ジブチリール-cAMP、cAMP のホスホジエステラーゼ阻害薬のロリプラムはいずれもドパミン遊離を増大するが、アデニレートシクラーゼを活性化しないホルスコリン類似薬はドパミン遊離を修飾せず、 Ca2+ およびカルモデュリン-感受性のアデニレートシクラーゼはニコチンによるドパミン遊離に必須の役割を果たしていると示唆している。ウシ培養副腎髄質クロマフィン細胞において34)、蛋白キナーゼ類の強力な阻害薬であるスタウロスポリン(1 nM 〜1 μM)前処置は用量依存性、前処置時間依存性に KCl(56 mM)、ニコチン(10μM)および BaCl(2 mM) によるカテコラミン遊離を減少し、Ca2+-誘発性のカテコラミン遊離をも減少するが、脱分極時の 45Ca2+ 流入を抑制せず、さらにスタウロスポリンは誘発性遊離と同様に基礎的遊離をも用量依存性、前処置時間依存性に抑制するという。スタウロスポリン前処置は、組織学的変化の二次的影響によらずに、分泌過程のかなり最終段階に必須の要因の欠落/変化を生じているという。ウシ副腎髄質クロマフィン細胞において31)、nAChR および mAChR 両者を作動するカルバコール(100〜200μM)は、アドレナリン生成酵素のフェニールエタノラミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT) を 12〜19 倍、アドレナリン遊離を 22 倍に増加する。このカルバコール応答は C あるいはアトロピン単独投与により部分的に拮抗され、両者併用により 90% 切れる。ムスカリン単独投与は安定時の PNMT mRNA を用量依存性に6倍に増加し、転写速度を5倍に増加する。ムスカリン応答はアトロピンあるいは m3-m4-拮抗薬により減弱するが、ムスカリンがアデニレートシクラーゼを抑制し、これら拮抗薬は m4 受容体に特有の親和性をもって結合するところから、m4 受容体が PNMT mRNA 活性化に重要であるという。ニコチンも用量依存性に PNMT mRNA を 8.5 倍に増加する。このニコチン応答には電位依存性 Ca2+チャネルが関与している。なぜならば、Ca2+-イオノフォアーは同応答を2〜5倍に増加し、L-および N-型 Ca2+ 拮抗薬のニフェジピンおよびω-コノトキシンは同応答をそれぞれ 60% あるいは 40% 減少するからである。さらに、核抽出物を用いた in vitro 転写活性測定により、ニコチンは PNMT 遺伝子の転写を4倍に増加したという。

Ca2+ は伝達物質遊離・神経機能制御に重要な役割を果たしており、 Ca2+ /カルモデュリンによって活性化される多機能性蛋白キナーゼ類がその主要な部分を担っていると考えられる。 Fujisawa らによれば、ラット小脳などに存在するカルモデュリン依存性蛋白キナーゼ IV(キナーゼ IV)は Ca2+/カルモデュリン依存性に自己燐酸化され、分子内のカルボキシル末端に近い Ser437 が燐酸化されると活性が 10 倍以上に上昇するという35)。自己燐酸化された酵素のカルモデュリンに対する親和性は変化しないが、基質であるシンタイド2と ATP に対する親和性が増し、最大反応速度が増大するという。また、特にキナーゼ IV を特異的に Ca2+ /カルモデュリン依存性に燐酸化し、強く活性化する Ca2+ /カルモデュリン依存性蛋白燐酸化酵素(セリン残基を燐酸化するキナーゼ IV キナーゼ)が大脳皮質、脳幹部、小脳などに存在することを見出した。ラット脳を用いて精製・解析の結果、これは新しい酵素であり、このキナーゼ IV キナーゼによる活性化は自己燐酸化による活性化に比し著しく大きく、かつ速やかであると報告している36)37)。ニコチン応答の機序解明との関連において、今後の研究の発展が期待される。

副腎髄質はまた、カテコラミン以外の多様な伝達物質候補を遊離しうる。ウシ培養副腎髄質クロマフィン細胞において38)、ヒスタミンはカテコラミンおよびオピオイド類を遊離するが、ヒスタミンは免疫組織学的に 45% の同細胞において TH と共存する一方、ヒスタミンのみを含有する細胞は8% にすぎず、肥満細胞は見られない。高 K+(56 mM)は Ca2+-依存性に、ニコチンは用量依存性に(10 nM〜10μM)ヒスタミンを遊離する。同細胞はヒスチジン脱炭酸酵素を含有し、同酵素はα-フルオロメチルヒスチジンにより抑制されるという。同細胞において、ヒスタミンが合成・貯蔵・遊離されることを示している。 ウシ培養副腎髄質クロマフィン細胞において39)、ニコチン(5μM)は Ca2+-依存性、C-感受性にエンケファリンペプチドを遊離し、同時にその生合成を増加する。同様の結果は高 K+ によってもみられる。他方、細胞内 cAMP の増加は生合成および長期的なエンケファリン遊離を増大するが、急性の同遊離を増大しない。エンケファリン生合成の Ca2+ 流入に対する連関は、エンケファリン遺伝子の転写レベルにおいて起こる。高 K+ 脱分極は、まずエンケファリン遺伝子の転写速度を増大し、ついで Ca2+-依存性のエンケファリン mRNA の上昇を生じる。高 K+ あるいはニコチンによるエンケファリンペプチドの蓄積は Ca2+ 拮抗薬の D600 あるいは C の前処置および 1 時間後の処置により拮抗されることから、Ca2+ はエンケファリン生合成の引き金というよりはむしろ連続的な刺激として作用しているという。エンケファリン系の制御とは対照的に、脱分極は、分泌性蛋白のクロモグラニン A あるいは B を遊離するが、 mRNA あるいは遺伝子転写の上昇を伴わなかったという。ウシ培養副腎髄質クロマフィン細胞において29)、ニコチン(10μM)はノルアドレナリン、アドレナリンとともにα-ヒト心房性利尿ポリペプチド-様免疫活性物質を共同遊離するという。ウシ培養副腎髄質クロマフィン細胞において40)、細胞外液中にルチフェリン-ルチフェラーゼを加え、アデノシン-三燐酸(ATP)の遊離を測定することにより、分泌応答の時間経過を解析しうるようになり、ACh(10μM)、ニコチン(5μM)および高 K+(60 mM)は Ca2+-依存性に、2相性に ATP を遊離し、初期相は細胞膜に近いプールからの遊離を、遅れた時相は膜から離れたプールからの遊離を反映するなどの可能性があるという。

5) ニコチン、神経成長因子とニューロン活動に伴う遺伝子発現

マイネルト基底核を起点とし、前頭葉皮質、基底核、海馬、網膜などに終末する上行性コリン作動性神経の変性とアルツハイマー病の発症との相関から、同神経終末の促進性 nAChR の変動が注目され、あるいは、同神経路が神経成長因子(NGF)の作用経路と同じであると考えられていることから、ニコチンと NGF の関連が注目されてきた。(S)-ニコチンが結合する受容体数はアルツハイマー病の死後脳において著減する。11C-(S)-ニコチンをヒトに静注した後の11C-ニコチン量をポジトロン CT を用いて測定した結果、初期ないし軽度のアルツハイマー病において受容体結合性は正常者に比し同様であったが、中等度アルツハイマー病において著減するという41)。ニコチン性受容体数の減少は、アルツハイマー病の初発現象というよりは、疾病の進行にともなって現われる随伴現象であるという。マウス脳アストログリア培養細胞において、NGF が合成・分泌されるが、たばこ煙タール中に含まれる多価フェノール類のうち、特に、2-イソプロピルハイドロキノン、1,2,4-トリハイドロキシベンゼンなどが 0.1 mM 前後の濃度範囲において NGF の生合成を促進するという42)。ニコチンは非立体特異性に3mM 前後の濃度範囲において NGF の生合成を促進する43)

近年、一連の最初期遺伝子が同定されているが、それらは成長因子などの刺激に反応して速やかに誘導され、これら遺伝子群の原形としての c-fos および c-jun の生成蛋白質は DNA 結合活性を有し、ほかの遺伝子発現の調節をはじめ、成長、分化、発達などの長期的細胞応答に関与すると示唆されている。一例をあげれば、PC12 細胞において44)、異種の外来刺激は最初期遺伝子の異なった発現パターン、特に c-fos と c-jun 発現の分離を示すという。神経成長因子(50 ng/ml)あるいは上皮成長因子(3 ng/ml)は c-jun を c-fos および jun-B と同時誘導するが、一方、 高 K+(60 mM)あるいはニコチン(0.1 mM)による膜脱分極は c-fos および jun-B を c-jun 応答なしに発現する。各種転写因子候補をコードするグルココルチコイド受容体関連遺伝子の nur/77 は、成長因子によりきわめて軽度に、脱分極により中等度に誘導される一方、Zn2+ 結合性核酸配列を有する zif/268 は、成長因子により著明に、脱分極により中等度に誘導される。多様な信号伝達経路が最初期遺伝子発現を制御し、環境変化に対する細胞応答の多様性と特異性は、比較的少数の最初期遺伝子の異なった組み合わせの誘導が要因となりうるという。鬼頭らはラットにおいて45)、ニコチンの慢性投与(800μg/kg/日、2週)および急性連続投与(2mg/kg, 30 分間隔7回)の脳諸部位の c-fos と zif/268 発現に及ぼす効果を検討した。ニコチンの慢性投与は、急性連続投与と同様に、これらの遺伝子発現を増加した。c-fos と zif/268 mRNA は同じ分布を示し、大脳皮質、特にその第 III 層、線 条体、中隔、海馬、上丘、脚間核、中脳中心灰白質に見られた。これらの部位は nAChR に富んでいる。しかし、視床は同受容体が比較的多いにもかかわらず、遺伝子の発現変化は見られなかった。これらの結果は、ニコチンの慢性投与に伴う耐性、依存性などの生体の変化の基礎に脳内遺伝子発現の変化があること、またその発現応答において、nAChR に多様性があることを示唆している。

6)ニコチンと末梢神経系・知覚神経系

ニコチンは、交感神経終末から、ノルアドレナリンと共存しているたとえば neuropeptide Y46) などのポリペプチド、 ATP47) などをともに遊離すると報告されている。ニコチンはまた、各種血管系において、内皮細胞非依存性に、 C-感受性に NO 性ニューロンから伝達物質として NO を遊離し、弛緩応答を生じると報告されている。たとえば、イヌ大脳および網膜動脈の NO 性拡張性神経は翼口蓋神経節由来であるという48)。ブタおよびイヌの小腸切片において49)、腸クロム親和性細胞からの内因性 5-HT の自発性遊離はかなりの部分 Ca2+-依存性、TTX-感受性であり、ニコチンにより用量依存性、C-感受性、α-ブンガロトキシン-非感受性に増大する。イヌの場合、ニコチンの作用はまず ACh を遊離し、その ACh が腸クロム親和性細胞上の mAChR を介して 5-HT を遊離するうえに、ニコチンはまた、コリン作動性介在ニューロンを介して未知の 5-HT 抑制性伝達物質を遊離するため、 5-HT の自発性遊離はそれら逆方向の作用とのバランスによって決まるという。ブタの場合、ニコチンの作用部位は直接腸クロム親和性細胞上にあるようであり、さらに、神経性 mAChR 刺激は、上記の未知の 5-HT 抑制性伝達物質を遊離するという。小細胞性肺癌細胞株において50)、 ニコチンおよびニコチン類似体のシチジンは用量依存性、α-ブンガロトキシン- およびα- コノトキシン感受性に [H]-5-HT の遊離ならびに同細胞の増殖を刺激し、さらに、PCR 解析は nAChR のα7 およびβ2 両サブユニットの mRNA の存在を示したという。

多数の末梢臓器および中枢において51)52)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)がカプサイシン-感受性の知覚神経ニューロンから Ca2+-依存性に遊離される。低濃度のカプサイシン、逆行性電気刺激、ブラジキニンによる CGRP 遊離は TTX- およびω-コノトキシン感受性であり、α-作動薬により抑制される。ニコチンは用量依存性に CGRP を遊離し、この遊離は TTX- およびω-コノトキシン非感受性51)、C-ならびにメカミラミン-感受性であり52)、またカプサイシン長期曝露により消失する。ニコチン作用の脱感作後には、カプサイシンによる CGRP 遊離も脱感作を示すという。モルモット気管において53)、ニコチンはサブスタンス-P-様物質の遊離を介して収縮を示すという。ニコチンの気管標本収縮作動力価(pD2 値)は 10〜100 週にかけて週齢とともに減少するが、一方、サブスタンス-Pの pD2 値の週齢による減少は見られず、また、ニコチンによるサブスタンス-P-様物質の遊離は週齢とともに減少することから、ニコチン作動力価の週齢による減少はサブスタンス-P-様物質の遊離減少によるという。

7)ニコチンとホルモン分泌

視床下部-脳下垂体系を介して生じる複雑な各種脳下垂体関連ホルモン分泌に関して、Fuxe ら3)は、上述の神経性 nAChR を、脱感作を生じやすいものと生じにくいものに分類することにより、ニコチンの1回ならびに反復・慢性投与時の修飾作用をある程度説明しうると提唱している。ニコチンの1回投与(0.3 mg/kg, i.p.) はプロラクチン、バソプレシン、ACTH の血漿レベルを増大するが、30 分後に脱感作を生じ、対照レベルに戻る。一方, 副腎皮質ホルモンのコルチコステロン血漿レベルは 30 分までゆっくりと増大し、脱感作を生じない。ニコチンの1回投与(2 mg/kg, i.p.,5分後)による黄体化ホルモン(LH)の血漿レベル増大作用はメカミラミン-感受性、α-ブンガロトキシン-非感受性である。また、ニコチンの急性反復投与(2 mg/kg, i.p.,2時間に4回)は甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン、LH の血漿レベルをメカミラミン-感受性に減少する一方、ほとんどメカミラミン-非感受性にコルチコステロン血漿レベルを増大する。これらの修飾作用は、急性反復投与により脱感作を生じにくい神経性 nAChR を介するものである。さらに、10 日間の喫煙は TSH 減少作用およびコルチコステロン増大作用を脱感作するが、一方、プロラクチン、LH 減少作用を脱感作しない。ニコチンの急性反復投与はまた、カテコラミン類合成の律速段階酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)の阻害後の視床下部正中隆起の内・外側柵帯におけるドパミン含量のメカミラミン-感受性の減少=利用増加を生じ、この作用も 10 日間の喫煙に対して抵抗性を示した。内側柵帯内にあるドパミン性神経終末がおそらくプロラクチン抑制因子としてのドパミンを遊離し、一方、外側柵帯内にあるドパミン性神経終末がニコチンの黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)遊離抑制作用、ついで LH 減少作用に介在しているという。このドパミン性受容体は D タイプである。つまり、ニコチンによる LHRH=LH 遊離の増加は、LHRH ニューロンに直接局在している急速に脱感作される nAChR を介する作用であり、一方、ニコチンの LHRH=LH 遊離に対する遅発性の抑制作用は、ニコチンが脱感作を生じにくい神経性 nAChR を介してドパミン遊離を促進し、このドパミンが LHRH ニューロン終末に局在している脱感作を生じにくいドパミン性 D-受容体を作動する結果であるという。さらに、視床下部ノルアドレナリン性神経終末に共存する nAChR とノルアドレナリン遊離促進性のドパミン性 D-受容体あるいは同抑制性のα-受容体とのあいだにそれぞれ受容体-受容体相互作用があり、D-作動薬およびα-作動薬は [H]-ニコチンの高親和性結合部位の親和性を低下させ、nAChR を介するノルアドレナリン遊離促進応答を減弱させる。一方、ニコチンは [H]-α-リガンド結合に影響しないという。

そのほかの現在までのニコチンによるホルモン分泌作用に関する報告を概観すれば、以下のようになる。

視床下部ホルモン分泌に関して、ラット視床下部切片において54)、ニコチン(0.1〜10μM)はある程度 C-感受性に副腎皮質ホルモン放出因子(CRF)を分泌するという。脳下垂体ホルモンのうちプロラクチン分泌に関して55)、i.v. 投与の 1.ニコチン(100μg/kg)、2.モルヒネ(3 mg/kg)、3.選択的 5-HT1A 作動薬の 8-ヒドロキシ-2-(ジ-n-プロピルアミノ)テトラリン (8-OH-DPRA, 100μg/kg)、4.ドパミン拮抗薬のハロペリドール(3 mg/kg)はそれぞれプロラクチンの血漿レベルを上昇するが、メカミラミン は1. 応答のみを、モルヒネ拮抗薬のナルトレキソンは 1.、2. 応答を、セロトニン拮抗薬のメチセルジットは 1.、2.、3. 応答を、ドパミン作動薬のブロモクリプチンは 1.、2.、3.、4. 応答を遮断するという。プロラクチンは、少なくとも一部、末梢投与のニコチン、モルヒネ、 8-OH-DPRA により機能上直列性にニコチン性、オピオイド性、5-HT1A 性受容体の順位に従って分泌され、最終的に、ドパミン遊離の抑制を介して生じるという。一方56)、プロラクチン血漿レベルはニコチン第IV脳室投与(IV、0.125〜2.5 μg)により用量依存性に上昇し、この上昇は i.v. 投与のメカミラミンにより、あるいは i.v. 投与ニコチン(0.03 mg/kg)に対する応答はIV投与のメカミラミンにより拮抗され、第IV脳室近傍の視床下部領域に終末する脳幹部上行性カテコラミン性ニューロンの関与が示唆された。6-ハイドロキシドパミンによる中枢性カテコラミン性ニューロンの変性は、IVあるいは i.v. 投与のニコチンに対する応答を消失した。 i.v. 投与のニコチンに対する応答はまた、ドパミン-β-水酸化酵素(DBH)阻害および2種の選択的薬物を用いたアドレナリン合成阻害により、ドパミン拮抗薬のドンペリドンに対する分泌応答の修飾なしに、減弱し、さらに、α-遮断薬のイダゾキサン、α-遮断薬のプラゾシンあるいはβ-遮断薬のプロプラノロールの第 III 脳室の視床下部領域注射により減少した。ノルアドレナリンあるいはアドレナリンがニコチンに対するプロラクチン分泌応答に介在する可能性を示唆している。CRF 分泌に続くべき ACTH 分泌について57)、意識下ラットにおいて、ニコチン (0.01-0.03 mg/kg, i.v.)の ACTH 分泌作用はメカミラミン(i.v.)により拮抗されるが、両側視床下部室傍核周辺実質内投与のメカミラミンによっては拮抗されず、第 III 脳室より下流の第 IV 脳室投与のメカミラミンはニコチン(i.v.)に対する応答に、また逆に、メカミラミン(i.v.)投与は第 IV 脳室投与のニコチンに対する応答に拮抗するという。室傍核はニコチン応答の直接の作用部位ではなく、おそらく作用部位は下位脳幹部起始の、室傍核の CRF 含有ニューロンを含む視床下部に終末する、上行性カテコラミン性ニューロンであろうと示唆している。さらに、ニコチン(i.p.)は室傍核微量透析系においてノルアドレナリンを遊離し、このノルアドレナリンが CRF・ACTH ・コルチコステロンを分泌するとの思考となる8)。バソプレシンなどの分泌に関して、ニコチン投与(20μg, i.c.v., 100μg, i.v., 1.5 mg/kg, i.p.)は行動変化を伴い、血漿バソプレシン水準を増加する58)59)。水分負荷エタノール麻酔下ラットにおいて60)、ニコチン(100μg, i.v.)は昇圧および抗利尿応答を生じ、尿中バソプレシンおよびオキシトシン排泄を増加し、ネオスルガトキシン(80 ng, i.c.v.)はニコチンに対する昇圧応答を部分的に、バソプレシンおよびオキシトシン遊離を持続的に拮抗する。また、ネオスルガトキシン(80 ng, i.c.v.)は低血圧(ニトロプルシド 200 μg, i.v.)に対する抗利尿応答を抑制し、バソプレシン遊離を拮抗するが、一方、オキシトシン遊離を拮抗しない。意識下ラットにおいて61)、室傍核微量注入のムスカリン性作動薬はバソプレシンを遊離するがニコチンは無作用であり、一方、視索上核微量注入のニコチン(1 および 10 μg)は血漿バソプレシン濃度を一過性に対照に比し 7〜11 倍に増大するが、オキソトレモリン(2 および 20 ng)は無作用であるという。

以上のような概観を基礎として, 喫煙科学研究財団創立以来 10 年間の「神経伝達に及ぼすニコチンの影響」に関するいくつかの研究内容を概説することとする。

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ニコチンとL-ドーパ:ドーパはおそらく内因性神経伝達物質である

1) はじめに

1950 年代から、ドーパ(L-ジハイドロキシフェニールアラニン)は伝統的に単なるドパミンの前駆物質としてのアミノ酸にすぎず、その作用ならびにパーキンソン病における有効性は、ドーパ脱炭酸酵素(AADC)によるドパミンへの転換・補充によると信じられてきた。これに反して、Misu らは、1986年以来、「ドーパは内因性神経伝達物質そして/あるいは内因性神経修飾物質たりうる」との作業仮設を提起してきた62-66)。本研究は、高速液体クロマトグラフィーと電気化学的検出器を用いてラット視床下部切片からの電場刺激による内因性アドレナリン遊離にかかわるシナプス前制御機構の研究中に67)、刺激に反応して増大する未知のピークを見出し、このピークがドーパであると同定したことに始まり、主として、in vitro および in vivo の実験系において、内因性ドーパが伝達物質様に遊離されるとともに外来投与のドーパそれ自体がシナプス前・後の種々の応答を生じる事実に基づいている。

一つの新しい生体内物質が神経伝達物質であると同定するために、古典的には、生理学的遊離、生理学的応答、存在、貯蔵、合成、代謝、能動輸送などが証明される必要がある。一般に、チロシンから TH によるドーパへの合成とドーパから AADC によるドパミンへの変換は確立されたといってよい。 3-O-メチルドーパは、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)によるドーパの代謝物である。しかし、ドーパのある種のシナプス前作用はこの代謝物により模倣されないし68)、また COMT 阻害薬により阻害されない69)。同シナプス前作用はまた、ドパミンの酸性代謝物の 3,4-ジハイドロキシフェニール酢酸(DOPAC)によっても模倣されない68)。ドーパのニューロン膜を横切る輸送系は、カテコラミンの場合とは異なって、コカイン-非感受性であり、大型中性アミノ酸のそれと共通である。しかし、膜上のこの輸送部位はドーパの同シナプス前作用に対する認識部位とは異なっている68)。ドーパは、従来、カテコラミン性ニューロンの細胞質中に存在するとされてきたが、中枢神経系内にドーパを最終産物として含むニューロンが存在するとの二つの証拠が示されている。孤束核・迷走神経背側核に、免疫組織学的に TH により染色されるが AADC により染まらないニューロンが存在すると文章により記載されたのが最初の例である70)。また、中枢神経系諸部位に、ドーパに対する免疫組織学的反応性を示すが、ドパミンに対する免疫組織学的反応性を示さないニューロンおよび神経線維が存在する71)-73)

2) in vitro および in vivo におけるドーパの遊離

ドーパ研究の第一標的部位は線条体である64)-66)

内因性ドーパは、ラットの線条体切片74)および無麻酔、無拘束下線条体微量透析により75)、神経伝達物質様に遊離される。ドーパの同定は、その基礎的遊離が TH 阻害薬のα-メチル-p-チロシン(α-MPT, 200 mg/kg, i.p.)により著減し、AADC 阻害(NSD-1015, 100 mg/kg, i.p.)により著増(150 倍)することなどによる。詳細は文献74)75)を参照されたい。最初の線条体切片からの遊離実験74)は、ドーパピークのドパミン代謝物による妨害をできる限り避けるために、コカイン存在下において行った。両相性電場刺激はドーパをほぼ完全に TTX-感受性、Ca2+-依存性、刺激頻度依存性(0.5-2 Hz)に遊離した。高 K+ によるドーパ遊離もほぼ完全に Ca2+-依存性、濃度依存性(10-15 mM)を示した。ドパミン遊離と異なって、ドーパ遊離はより高刺激頻度(5 Hz)、K+ のより高濃度(30 mM)において、最高遊離絶対値(0.3 pmol)に比し減少した。その一つの理由は、同時に遊離されたドパミンによるシナプス前 D-受容体を介する負のフィードバック機構である。それにしても、ドーパ対ドパミン遊離比は 5 Hz および K+ 30 mM において、1:1000 となり、低刺激頻度、 K+ のより低濃度における遊離比 1:10〜40 に比しきわめて大であった。これは、ドーパが主としてドパミン含有小胞以外のコンパートメントから遊離されることを示唆している。ニコチンによる遊離実験は、コカイン非存在下において行った。コカインが nAChR に対する非選択的拮抗薬であるからである。ニコチンは用量依存性(0.1〜10μM)、Ca2+-依存性、立体特異性、メカミラミン-感受性にドーパ・ドパミンを遊離した6)

重要な知見は、ドーパの神経伝達物質様の基礎的遊離が無麻酔、無拘束下線条体微量透析により、生理学的条件下において見出されたことである75)。20 分間のサンプル中の絶対値は約 50 fmol である7)75)-78)。ドーパの基礎的遊離は 50-60% 程度の TTX-感受性、Ca2+-依存性を示した。これは、線条体切片74)においては得られなかった知見である。この事実は、少なくともドーパのある部分は多くの神経伝達物質と同様の過程を介して線条体ニューロンから遊離されることを示す。in vitro における高 K+ による Ca2+-依存性のドーパ遊離74)も確認された。

上述の基礎的および誘発性ドーパ遊離の Ca2+-依存性機序に関して、三つの可能性が想定される64)-66)。第一は脱分極による TH の活性化、第二はドーパの興奮-遊離過程、第三は第一・第二の両要因が連関している場合である。いずれにしても、 Ca2+ が第一義的にドーパの興奮-遊離過程に関与しているといいうる。何故ならば、線条体切片において74)、高 K+ によるドーパの誘発性遊離と TH の活性化の時間経過を見た場合、ドーパの誘発性遊離が先行するからである。[H]-チロシン灌流系において、K+(15 および 60 mM)は、[H]-HO 生成により測定されるTH 活性化の濃度依存性の減少と同時にドーパを遊離し、その後、TH 活性化の濃度依存性の増加はドーパ遊離が終了したあとに見られる。脱分極のあいだに、同時に遊離されているドパミンによるシナプス前 D-自己受容体を介する負のフィードバックにより TH 活性の抑制が先行し、ドパミン遊離が終了したのち、脱分極による TH の活性化が顕在化してくると考えられる。

ドーパ対ドパミンの基礎的遊離比はコカイン非存在下において 1:2〜3 である7)75-78)。ドーパのターンオーバー率(遊離量/含量)はドパミンに比し2〜3倍高い6)74)。ドーパはきわめて効率よく合成され、利用される形の神経伝達物質と考えられる。

さらに、無麻酔、無拘束下線条体微量透析において7)、プローブを介して灌流したニコチン (200μM)は反復して、一定にしかも立体特異性にドーパおよびドパミンを遊離するが(図-2)、興味深い知見は、切片の場合74)と異なって、ドーパおよびドパミン遊離ともにある程度TTX-感受性を示したことである。もう一つの重要な知見は、関与する nAChR はドーパ遊離に関しては緊張性に機能しているが、一方、神経伝達物質であると同定ずみのドパミン遊離に関しては緊張性に機能していない点である(図-3)。in vivo の系においては、ニコチンは Na+ チャネルの活性化を介するある種のニューロンの脱分極を線条体内のニューロンネットワークにおいて生じ、この脱分極がドーパおよびドパミンを遊離すると考えられる。

3) 外来投与ドーパに対する in vitro のシナプス前応答

AADC 無傷あるいは AADC 活性を 99.6% まで抑制(NSD-1015、20μM)69)した脳切片において、nM から mM に至る濃度のドーパの内因性ドパミン、ノルアドレナリンおよびグルタミン酸遊離に及ぼす影響を検討し、カテコラミン誘発性遊離に及ぼす2相性シナプス前制御応答62)63)とグルタミン酸基礎的遊離に及ぼす促進作用79)を見出した(図-4)。

AADC 無傷時62)63)、0.1 μM より高濃度のドーパはドパミンの自発性遊離を増大した。10〜100μM はドパミンの誘発性遊離および含量を増大した。これらは前駆物質としてのドーパ からドパミンへの変換によるものであり、従来の思考に一致する。AADC 無傷および阻害下の切片においても(図-4)、nM 濃度のドーパはシナプス前β-受容体80)を介して、ドパミンの誘発性遊離(5 Hz)を立体特異性に、プロプラノロール-感受性に促進し、ドパミンへの変換の指標となる自発性遊離を増大しなかった。この促進は COMT 阻害下にも見られた。

AADC 阻害下において、μM 濃度のドーパは、シナプス前 D-受容体を介してドパミンの誘発性遊離を立体特異性にスルピリド-感受性に抑制し、ドパミンの自発性遊離を増大しなかった (図-4)。nM から μM のドーパに対する応答はドパミンへの変換を介するものではなくて、ドーパそのものの作用による。

ドーパのシナプス前β-受容体を介する残存するニューロンからのドパミン遊離促進作用は、パーキンソン病モデルの 1-メチル-4-フェニール-1,2,3,6-テトラハイドロピリジン(MPTP)で 処置した C57 BL マウス81)から作成した線条体切片においても見られる82)。nM 濃度のドーパによるこのドパミン遊離促進作用は、より高濃度の場合のドパミンへの変換・補充に加えて、パーキンソン病における有効性の一部の説明となる。他方、μM 濃度のドーパによるシナプス前 D-受容体を介したドパミン遊離の抑制は、パーキンソン病患者の線条体におけるように AADC 活性の低い部位において顕在化し、パーキンソン病の慢性投与時に見られる薬効消失その他の副作用の要因になりうると考えられる。

かくして、nM からμM 濃度のドーパは一定の応答を誘発するが、これらの濃度はドパミンがシナプス前性にカテコラミン誘発性遊離を制御する濃度範囲にほぼ一致する。しかし、重要な事実はドパミンが、ドーパとは逆に、μM 濃度においてシナプス前β-受容体を介してノルアドレナリン遊離を促進し、一方、より低濃度においてシナプス前 D-受容体を介してそれを抑制することである83)

ドーパが神経伝達物質であるとすれば、ドーパに対する認識部位が存在するはずであるが、その部位はβ-受容体とも D-受容体とも異なっている。ドーパが特異的β-および D-リガンド結合を置換しないからである68)。同認識部位が存在するとすれば、競合的拮抗薬が見出されるはずである。視床下部切片からのノルアドレナリン誘発性遊離を指標にして、AADC 阻害下において5種のドーパ類似薬を検討した結果、ドーパメチルエステルが pA2 値 8.9 の競合的拮抗薬であることを発見した68)。同認識部位は、D-ドーパが無作用であるところから、多くの受容体と同様に立体特異性を示すといえる。

nM 濃度のドーパメチルエステルを単独投与した場合68)、ノルアドレナリン遊離は抑制される。この抑制はドーパに対する認識部位の緊張性機能の反映と考えられ、遊離されたドーパは内因性作動薬として作用し、未知のシナプス前β-受容体との相互作用を介してノルアドレナリン誘発性遊離を促進するのであろう。一方、プロプラノロール(1〜100 nM)はドーパのノルアドレナリン遊離促進を非競合的に拮抗する。この事実もドーパ認識部位がシナプス前β-受容体とは異なるとの思考を支持している。さらに、無作用濃度の pM 濃度のドーパは濃度依存性に、立体特異性にβ-作動薬のイソプロテレノールのノルアドレナリン遊離促進作用を増強する84)。この増強はドーパメチルエステルにより拮抗され、一方、プロプラノロールはイソプロテレノールの単独促進およびそのドーパによる増強の両者を拮抗する。かくして、外来投与のドーパはその認識部位に作用して、シナプス前β-受容体応答を増強するといえる。

アドレナリンは視床下部ノルアドレナリン性神経終末上にあるシナプス前β-受容体に対する内因性作動物質である85)から、外来投与したドーパは内因性に遊離されるアドレナリン67)のノルアドレナリン遊離促進作用を増強すると考えられる。補助的要因として、遊離されるノルアドレナリンの シナプス前自己β-受容体を介するノルアドレナリン遊離促進作用に対する増強も関与する。何故なら、視床下部ノルアドレナリン性神経終末上には、シナプス前β-およびβ-受容体が共存しているからである69)85)。ドーパはこれらの受容体に対する内因性増強物質であろう。この思考はそのほかのカテコラミン性受容体、たとえば、抑制性シナプス前α-受容体86)、シナプス後 D-受容体77)78)などにも拡張しうる。

パーキンソン病の治療にドーパが導入されて以来、ドーパはドパミン性神経の変性を促進するのではないかと危惧されてきた87)in vitro の証拠にすぎないとしても、ドーパから生じるフリーラジカルおよびキノン代謝物、ドパミンの代謝物の過酸化水素、ドパミンの酸化によって生じうる 6-ハイドロキシドパミンなどが細胞死を起こしうるからである。さらに、μM から mM のドーパは、ラット線条体切片において濃度依存性に 140μM の ED50 値をもって内因性のグルタミン酸の基礎的遊離を増大する79)図-4)。ドーパのこの増大作用(300μM)は Ca2+-依存性、ドーパメチルエステル-感受性、ある程度 TTX-感受性であり、また AADC 阻害により影響されない。D-ドーパおよびドパミン(300μM)は無作用である。この作用は、ドーパ自体の作用である。AADC 阻害下において、in vivo 線条体の外液中ドーパ濃度は、外来ドーパの1回投与(100 mg/kg. i.p.)によりグルタミン酸の基礎的遊離を増大する濃度に近づきうる66)。さらに、10〜100 nM のドーパの線条体内灌流は 60〜70% までグルタミン酸の基礎的遊離を増大するとの予備的知見を得ている。パーキンソン病の慢性治療に際して、この作用がドパミン性ニューロンの神経性細胞死の原因になりうる可能性をつねに考慮しておく必要がある66)。慢性投与のドーパが正常実験動物の黒質における健常なドパミン性神経の変性を生じるとの証拠はない。しかし、6-ハイドロキシドパミンを一側内側前脳束に処置したラットにおいて、ドーパおよびカルビドーパの 27 週間投与は、同側腹側被蓋野に残存しているドパミン性神経の数をより減少させるという87)。一方また、ドーパがグルタミン酸の基礎的遊離を増大するとの知見は、さまざまなグルタミン酸受容体拮抗薬がパーキンソン病のアカゲザル病態モデルにおいて、特に、不随意運動に有効性を示し、またすべての同実験動物病態モデルにおいて、ドーパと各種グルタミン酸受容体拮抗薬の併用が協力的に有効性を示す事実88)とも矛盾しない。

4)ドーパの作動活性の構造-活性相関

視床下部切片からの誘発性ノルアドレナリン遊離を指標にした場合、カテコール核、アミノ基およびカルボキシル基の3種構造が必要である68)。L-スレオドプス(L-スレオ-3,4-ジハイドロキシフェニールセリン)は、AADC によるノルアドレナリンへの変換を介してパーキンソン病のすくみ足現象などの治療に有効とされてきたが、上記3種構造を有しており、ドーパと類似のそれ自体の2相性のシナプス前制御作用を示す89)。pM から nM 濃度の L-スレオドプスは、AADC 無傷時および AADC のほぼ完全な阻害下に、シナプス前β-受容体を介してノルアドレナリン遊離を促進する。この促進は、ドーパメチルエステルにより競合的に拮抗される。nM からμM 濃度の L-スレオドプスは、AADC 阻害下に、シナプス前α- および/あるいは D-受容体を介してノルアドレナリン遊離を抑制する。100μM 以上の高濃度は、一部変換を介してノルアドレナリンの自発性遊離および含量を増大する。しかし、このノルアドレナリンの自発性遊離増大、さらに誘発性遊離増大の主要部分は、変換を介さない L-スレオドプスそれ自体の作用、たとえば、モノアミン酸化酵素 A に及ぼすそれ自体の抑制作用90)などによると考えられる66)。L-スレオドプスは、おそらくドーパの認識部位に作用する作動薬の一つと考えられる。

5) 外来投与ドーパに対する in vivo のシナプス後応答

ニコチンのラット自動運動増大作用における内在性ドーパの関与の可能性を検討した76)。この増大作用は用量依存性(0.1〜1 mg/kg, s.c.)、立体特異性、メカミラミン-感受性であり、意識下ラット線条体におけるニコチンの局所灌流によって誘発されるドーパおよびドパミン遊離の性格と一致する。この自動運動増大作用は、従来、中枢性ドパミン機能に関連づけられてきたが、著者らはその一部に内在性ドーパが関与していると考えている。i.c.v. 投与のドーパメチルエステルはニコチンの自動運動増大作用に拮抗せず、むしろニコチン作用を増大した。これはドーパメチルエステルが容易にドーパに変換されるため91)と考えられる。競合的拮抗薬のドーパメチルエステルがドーパに対して拮抗活性を発現するのは、脳切片の表面灌流系のように持続的に同エステルが供給される場合と、孤束核73)、尾側腹外側延髄92), 吻側腹外側延髄93)における微量注入系のように、ドーパに比し約 10 倍程度高濃度の同エステルを注入後、数分以内に限られるといわざるを得ない。今後の課題として、安定な競合的拮抗薬を開発する必要がある。そのため、つぎに、線条体微量透析系において、ドーパの基礎的遊離を抑制するがドパミンの同遊離を減少しないα-MPT の選択的用量の決定を試みた76)。α-MPT(200 mg/kg, i.p.)はドーパおよびドパミン両者の基礎的遊離を著減する75)。しかし、はるかに低用量の3 および 10 mg/kg は、徐々に用量に依存してドーパ遊離を 50〜60% 程度減少したが、一方、ドパミン遊離を減少しなかった。10 mg/kg がドパミン遊離の減少傾向を示したため、3 mg/kg を選択的用量とした。この用量のα-MPT 前処置は、ニコチン(0.4 mg/kg, s.c.)による自動運動増大作用を 40〜60% 減少した。内在性ドーパは、少なくとも一部、ニコチン作用に関与していると考えられる。

ドーパの i.p. 投与に対する in vivo の一つの応答は、無処置あるいは i.c.v. 6-ハイドロキシドパミン処置した意識下ラットの自動運動において見られた77)78)。無作用濃度のドーパは、シナプス前β-受容体活性を増強したのと同様に84)、シナプス後 D-受容体活性を増強する77)図-4)。自動運動と線条体のドーパ・ドパミン遊離同時測定系の無処置ラットにおいて、ドーパ 30 mg/kg は、中枢性 AADC 阻害下に (NSD-1015, 100 mg/kg, i.p.)、自動運動を増大せず、投与後少なくとも 140 分までドパミンへの変換は生じなかった。選択的 D-作動薬のクインピロール(0.01〜1 mg/kg, s.c.)は、1 mg/kg のみが軽度に 140 分間の自動運動を増大した。ドーパ 30 mg/kg は、クインピロール (0.1〜1 mg/kg)の自動運動増大作用を3〜4 倍に増強した。この増強作用はドーパ自体によるものであって、ドパミンへの変換によるものではない。ドーパ 30 mg/kg のクインピロール 1 mg/kg に対する増強は当然ドーパ遊離の著増を伴う一方、ドパミン遊離の増加を示さないからである。さらに、6-ハイドロキシドパミン処置ラットにおいて、ドーパの無作用用量は 10 mg/kg に低下した。これは、ドーパ認識部位、ドパミン受容体あるいは両者の感受性亢進を示す。ドーパ 10 mg/kg はクインピロール 0.3 mg/kg による自動運動を同様に増強した。ドーパの増強作用部位はシナプス後性である。ドーパとブロモクリプチンなどのドパミン性作動薬との併用がパーキンソン病治療上協力的であることは広く知られており、その機序はドーパからドパミンへの変換によるとされてきた。多くの実験系において、D- および D-作動薬の併用は協力的であると報告されている66)。本実験の結果は、シナプス後性のドーパそのものの認識部位と D-受容体のあいだに、D- および D-作動薬間の協力作用とは異なった、現時点においては機序不明の受容体-受容体相互作用が存在することを示している。

さらに、内因性に遊離されるドーパは緊張性に機能していて、シナプス後性の D-受容体を介する自動運動を増強する78)図-4, 図-5)。正常ラットにおいて、クインピロール 1 mg/kg は自動運動を増大するとともに、シナプス前 D-自己受容体を介して線条体におけるドーパおよびドパミンの基礎的遊離を抑制する。ドパミンの基礎的遊離を抑制せず、ドーパ遊離を選択的に抑制する用量のα-MPT 3 mg/kg 前処置は、クインピロール 1 mg/kg による自動運動増大を減弱するとともに、ドパミン遊離抑制の修飾なしにドーパ遊離をさらに減少する。一方、ドーパ遊離を著増しドパミン遊離をやや減少する NSD-1015 100 mg/kg 前処置はクインピロール 1 mg/kg による自動運動増大を増強するとともに、当然ドーパ遊離減少を増大に転じ、一方、ドパミン遊離抑制の修飾を生じなかった。

線条体におけるドーパの作用をまとめれば、ドーパはドパミンの前駆物質であるとともに、ドパミン遊離を促進するシナプス前β-受容体ならびに自動運動にかかわるシナプス後 D-受容体に対する内因性増強物質である(図-4)。ドーパは、線条体において、そのような形の神経伝達物質であると考えられる。これら3種の薬理学的性格のすべてがパーキンソン病における治療効果に直接あるいは間接に関与していると考えるべきである。また、グルタミン酸遊離作用は、ドーパの慢性投与時に生じる不随意運動などの神経興奮性副作用あるいはドパミン性神経変性の亢進に関与している可能性を示している。

6)下位脳幹部におけるドーパ系の役割

ドーパ研究の第二の標的部位は孤束核73)94)95)、尾側腹外側延髄92)(A1 領域)、および 吻側腹外側延髄93)95)(C1 領域)などの心・血管調節中枢を含む下位脳幹部である。何故なら、これら3領域において、ドーパに対して特異的免疫活性を示すニューロンおよび神経線維が見られるし71)、麻酔下ラットにおける微量透析系においてドーパが基礎的ならびに高 K+-誘発性に神経伝達物質様に遊離されるうえに73)92)93)95)、外来微量注入したドーパがシナプス後性の孤束核94)、A192)における降圧・徐脈応答を、また C193)95)における昇圧・頻脈応答を生じるからである。孤束核73)95)、A1 領域92)、C1 領域93)95)におけるドーパの基礎的遊離は、部分的ながら TTX-感受性、Ca2+-依存性を示す。いずれも対照に比し30% 程度の抑制であるが、これらの事実は、ドーパが少なくとも一部緊張性に神経活動により遊離されることを示している。また高 K+ は濃度に依存してドーパを遊離し、この遊離はほぼ完全な Ca2+-依存性を示す。ドーパはこれらの領域から脱分極依存性に遊離されるといえる。

圧受容反射は、心血管系機能が中枢における負のフィードバックの制御をうける重要な神経機構であり、孤束核は、圧受容反射の第一次求心性線維が終末する、中枢性血圧制御機構の入り口にあたる。その神経伝達物質がなにか?は、グルタミン酸が伝達物質候補として有力視されてはいるものの、いまなお不明のままである66)。ドーパは圧受容反射の第一次求心性線維の一つの神経伝達物質である可能性が高い73)94)95)図-6)。麻酔下ラットの両側孤束核並列式微量透析系において、ドーパの基礎的遊離は、上述の結果以外に、α-MPT(200 mg/kg,i.p.)により著減する。左大動脈減圧神経刺激(100 Hz, 8 V)は反復性に一定してドーパを遊離し、この遊離はほぼ完全な TTX-感受性を示す。フェニレフリン注入(50 mg/kg/min, i.v.)は、血圧の上昇、その後の回復の時間経過に一致して、ドーパ遊離と反射性徐脈を生じ、この遊離と徐脈は両側の頸動脈洞・大動脈神経の切断により消失する73)。孤束核内側の減圧部位に一側微量注入したドーパ(10〜100 ng)は、中枢性 AADC 無傷時73)、同阻害下あるいは i.c.v. 6-ハイドロキシドパミン前処置下に、用量依存性の降圧、徐脈応答を生じ、これら応答は同側のドーパメチルエステル微量注入により完全に拮抗された。D-ドーパ、ドパミンあるいはノルアドレナリン(100 ng)は無作用である94)。さらに、左大動脈減圧神経刺激 (20 Hz, 3 V)は一定して降圧、徐脈応答を生じ、これら応答は同側のドーパメチルエステル微量注入によりほぼ完全に拮抗された73)。この競合的拮抗薬のみを両側孤束核に微量注入すると、初期にドーパとは逆に、昇圧、頻脈応答を生じた。これはドーパ認識部位が緊張性に機能していることを示す。この思考の妥当性は、これら応答がα-MPT によりドーパの基礎的遊離を著減した場合消失することから確認された。さらに、左大動脈減圧神経を切断後7日に TH、ドーパ、ドパミン、ならびに DBH に対する抗血清を処置した場合、同側孤束核/迷走神経背側核領域において、TH およびドーパ免疫活性が減少する一方、ドパミンならびに DBH の免疫活性は減少しなかった。細胞体のある同側節状神経節においても、除神経はドーパ免疫活性細胞の数および染色性を減弱、また TH 免疫活性細胞の染色性を減弱した。これらの事実は、孤束核に終末する圧受容反射第一次求心性ニューロンは一つの神経伝達物質としてドパミン、ノルアドレナリンではなく、ドーパを利用していることを強く示唆している。また、成熟齢高血圧自然発症ラットにおいて、孤束核微量透析によるドーパの基礎的遊離は、同週齢のウイスター京都ラットに比し、つねにより低値を示す95)。同基礎的遊離は、両群において、TTX により同一の絶対値レベルまで部分的に抑制された。この TTX-感受性成分は、高血圧自然発症ラットにおいて同週齢のウイスター京都ラットに比し、より低値を示す。孤束核におけるTTX-感受性の神経性ドーパ遊離成分は、成熟齢高血圧自然発症ラットにおいて、障害されているといえる。この障害はドーパの生成減少あるいは脱炭酸化増大の二次的結果によるものではない。孤束核を含む尾部背内側延髄を用いた in vitro の測定系において、TH 活性は高血圧自然発症ラットにおいてウイスター京都ラットに比し、おそらく高血圧の結果として増加する一方、AADC 活性の相違は両群において見られないからである。孤束核における緊張性の神経性ドーパ遊離の障害は、高血圧自然発症ラットの高血圧の維持に関与している。

吻側腹外側延髄は孤束核、A1、 昇圧中枢の視床下部後部などからの入力を受け、脊髄中間質外側核に直接投射ニューロンを送り、血圧の静止時および反射性制御に重要な役割を果たしている(図-6)。麻酔下ラットの微量透析系において、ドーパの基礎的遊離は、上述の結果以外に、α-MPT(200 mg/kg)により著減する93)。一側 C1 の昇圧部位へのドーパ(30〜300 ng)微量注入は、無処置、中枢性 AADC 阻害下、i.c.v. 6-ハイドロキシドパミン前処置下において、用量依存性、ドーパメチルエステル感受性の昇圧、頻脈応答を生じ、また両側 C1 昇圧部位へのドーパメチルエステル単独微量注入は、ドーパとは逆に、降圧、徐脈応答を生じ、同応答は α-MPT 前処置により消失する。 C1 においても、ドーパに対する認識部位は緊張性に機能しているといえる。さらに、成熟齢高血圧自然発症ラットにおいて、C1 微量透析によるドーパの基礎的遊離は、同週齢のウイスター京都ラットに比し、つねにより高値を示す95)。同遊離は TTX により、両群において、同一の絶対値まで部分的に減少する。TTX-感受性の神経性ドーパ遊離成分は、高血圧自然発症ラットにおいて、同週齢のウイスター京都ラットに比し亢進している。この亢進の一部にドーパの脱炭酸化の減少が含まれる。AADC 活性は、高血圧自然発症ラットにおいて、同週齢のウイスター京都ラットに比し減少していたからである。一方、TH 活性は両群において差を見なかった。また、ドーパ(10〜600 ng)微量注入に対する用量依存性の昇圧、頻脈応答のうち、低用量に対する応答は、高血圧自然発症ラットにおいて、同週齢のウイスター京都ラットに比しより大きかった。C1 における一部 AADC 活性減少を含む神経性ドーパ遊離亢進ならびに外来投与ドーパに対する同認識部位の感受性増大は、高血圧自然発症ラットの高血圧の維持に関与している。また、麻酔下ラットにおいて96)、視床下部後部昇圧部位の電気刺激(50 Hz, 0.3 mA, 5分, 5分間隔に2回)は昇圧、頻脈応答を生じるとともに、C1 微量透析系において、反復性に、一定してドーパ遊離を誘発した。この遊離は完全に TTX-感受性を示した。これは、視床下部後部から C1 に直接あるいは間接的に投射するある種のニューロン系におけるドーパの神経伝達物質様の役割を示唆している。現在、この系が "DOPAergic" な単シナプス性のニューロンであるとの予備的知見を得つつある。

ドーパは古典的神経伝達物質の規範をほぼ満たす内因性神経活性物質であるといいうる64)-66)97)。高親和性であるが低密度と想定される特異的結合部位をいかにして証明するか? 細胞内情報伝達機構は? "ドーパ受容体"クローニングとアミノ酸配列は? これらが今後解明すべき主要な課題である。

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低酸素環境下における神経伝達の修飾

1)はじめに

一般に、脳あるいはニューロンは高度に酸素を必要とし、また嫌気性下においてほとんどエネルギー産生を示さないことから、ほかの臓器に比し低酸素に対する脆弱性は高いとされており、低酸素曝露の神経伝達修飾作用は興味ある研究テーマとなってきた。Fujiwara らは低酸素曝露とカテコラミン性伝達、コリン作動性伝達などとの相関を検討してきた。

2)in vivo 低酸素曝露とカテコラミン伝達

Fujiwara らは、従来、ラットを in vivo において低酸素に曝露した場合の、脳98)および末梢臓器99)のカテコラミン性神経系の機能を反映する指標とされる代謝回転、つまりα-MPT による TH 阻害下のカテコラミン含量消失速度を主な指標として検討してきた。ラット脳におけるノルアドレナリン、ドパミンの生合成、含量、代謝回転に及ぼす低酸素(10% O, 90% N)の影響として、低酸素はノルアドレナリン、ドパミン両者の生合成を減少するものの、両ニューロン機能抑制に関しては差が見られた。すなわち、ドパミンの代謝回転は検討した脳の6部位すべてにおいて大気中に比し約 50% の抑制を生じる一方、ノルアドレナリンの代謝回転は2部位において軽度に抑制したにすぎなかった98)。確かに、脳における AADC 阻害後のドーパの蓄積速度を指標とした場合、チロシン水酸化速度は低酸素曝露により減少した100)

他方、末梢心・血管支配交感神経・副腎系の活性は、全身性の低酸素曝露により促進されるとされてきた99)。この心臓における促進の作用部位として、末梢交感神経、節前線維ニューロンを含む脊髄、および脳の3部位が想定され、脳はさらに、化学受容器ならびに肺伸展受容器のうち、閾値の高い、延随において吸息活動を抑制する、inflation reflex を介する成分と脳そのものに作用する直接性成分からなるとされてきた。カテコラミン代謝回転は、心臓、副腎髄質において低酸素曝露(8% O, 92% N)により亢進するにもかかわらず、顎下腺において低下、胃において無変化と臓器差を示した99)。C前処置(10 mg/kg, i.p.)は心臓、副腎髄質、顎下腺におけるカテコラミン代謝回転の変化を消失した。さらに、C5〜6 レベルにおける脊髄切断は副腎髄質、顎下腺におけるノルアドレナリン、アドレナリンの代謝回転の変化を消失したが、一方、心臓の場合、低水準にとどまるものの、消失することはなかった。これらの知見が示唆するところは、心交感神経活性の低酸素による亢進の起源は脳および節前線維ニューロンを含む脊髄にあり、一方、副腎、顎下腺の交感神経活性の変化のそれは主として脳にあることになる。生体を低酸素に曝露する実験系の場合、化学受容器ならびに肺伸展受容器などの反射を介する調節機構が作動し、低酸素の中枢性あるいは末梢性神経伝達に及ぼす直接の作用が修飾されるため、in vitro における検討が必要と判断された。

3)ウサギ大動脈切片における低酸素曝露と経壁神経刺激による収縮応答、ノルアドレナリンの遊離および再取り込み

ノルアドレナリン性伝達に及ぼす低酸素の影響を検討するため101)、種々の酸素濃度を含む混合ガスにより飽和した栄養液中において、摘出ウサギ大動脈切片の経壁神経刺激(50 V, 40 Hz, 0.3 msec 矩形波, 10 秒刺激)に対する収縮応答、ノルアドレナリンおよび高 K+ の濃度-反応相関、ならびに [H]-ノルアドレナリンを前負荷した切片からの全 [H] と [H]-ノルアドレナリンの経壁神経刺激による流出を測定した。収縮応答は TTX およびフェントラミン、フェノキシベンザミンなどのα-遮断薬により完全に抑制された。これは収縮応答が切片中のノルアドレナリン性神経終末から遊離されたノルアドレナリンによるα-受容体の刺激の結果であることを示す。シクロオキシゲナーゼ阻害薬のインドメタシンは無作用であり、同酵素生成物質の同応答における関与は否定される。混合ガス中の酸素濃度を対照の 95% から 20% まで減少しても収縮応答は不変、さらに減少すると、収縮応答は酸素濃度依存性に抑制されるが、酸素濃度 0% において同応答は対照の 80% まで抑制されるにすぎなかった。経壁神経刺激に対する収縮応答は終末からのノルアドレナリン遊離、そのα-受容体への結合、細胞内情報伝達、血管平滑筋収縮の各過程からなる。酸素 0% において、全 [H] と [H]-ノルアドレナリンの経壁神経刺激による流出は約 50% まで抑制された。一般に、シナプス間隙に遊離されるノルアドレナリンのほとんどは神経性および神経外取り込み機構によりなくなっていく。[H]-ノルアドレナリンの表面灌流液中への流出は、これら取り込み機構とは関連しない遊離部分を示すと考えられている。したがって、酸素 0% における [H]-ノルアドレナリンの流出の減少は、ノルアドレナリン遊離の減少かあるいはノルアドレナリン取り込みの増大かのいずれかによることになるが、同標本において、ノルアドレナリンの取り込み機構の主たる成分の神経性取り込み機構は低酸素によって抑制されると考えられる102) ところから、終末からのノルアドレナリン遊離が低酸素により抑制されたことになる。酸素 0% において、外来投与のノルアドレナリンの濃度-反応曲線は右に 50 倍移動し最大応答は 25% 程度抑制されたにすぎなかったし、またレセルピンあるいは 6-ハイドロキシドパミン処置動物から作成した同切片の高 K+ に対する最大拘縮応答は軽度に 15% 程度抑制されたにすぎなかった。したがって、外来投与のノルアドレナリンに対する収縮応答の低酸素条件下の減少は、主として濃度-反応曲線の右方移動によると考えられる。かくして、ノルアドレナリン性神経伝達に及ぼす低酸素の抑制作用は、第一義的に刺激誘発性のノルアドレナリン遊離、α-受容体のノルアドレナリンに対する親和性、そして/あるいは細胞内情報伝達諸要因の減少によると結論される。

4)培養ウシ副腎クロマフィン細胞における低酸素曝露とカテコラミン遊離、Ca2+ 取り込みと細胞質遊離 Ca2+ 濃度

さらに、低酸素曝露によるカテコラミン遊離抑制作用機序を明らかにするため、交感神経ニューロンの一つのモデルとしての培養ウシ副腎クロマフィン細胞を用い、[Ca2+]i と電位依存性 Ca2+ チャネルを介する Ca2+ 流入に及ぼす低酸素の影響を検討した103)。K+ 55 mM によるノルアドレナリンおよびアドレナリンの遊離は、低酸素(100% N)曝露により対照(21% O/79% N)の 40% まで抑制された。これは交感神経ニューロンの一つのモデルとしての妥当性を示している。この抑制はエネルギー代謝抑制あるいは細胞障害の結果によるものではない。何故ならば、細胞内 ATP 濃度は不変のままであるし、また低酸素の効果は可逆性を示したからである。高 K+ によるカテコラミン遊離は、膜の脱分極、電位依存性 Ca2+ チャネルを介する Ca2+ 流入、[Ca2+]i の上昇、それに続く遊離過程の活性化の諸過程からなる。どの過程が低酸素に対して脆弱性を示すかが問題となる。ジギトニンにより透過性となった細胞において、Ca2+ 濃度増加により生じるカテコラミン遊離は、低酸素により影響されなかった。これは開口分泌機構自体およびその Ca2+ に対する感受性が低酸素によって影響されないことを示唆する。

fura-2 を用いて測定した基礎レベルの [Ca2+]i は、対照混合ガス曝露時には一定であったが、一方、低酸素曝露時には漸次増大し、プラトーに達した。この時点において、カテコラミン遊離は見られなかった。低酸素曝露時の [Ca2+]i が漸次増大しプラトーに達する機序は不明である。またこの時点における高 K+ 投与は 、[Ca2+]i を一過性に増加したのち減少に転じ、以後一定水準を維持した。この [Ca2+]i 増加パターンは低酸素により、総じて対照の 30% まで減少した。減少の程度はカテコラミン遊離の減少程度に一致した。これは、低酸素誘起の高 K+ によるカテコラミン遊離の抑制が主として[Ca2+]i 増加の抑制によることを示唆する。

45Ca2+ 取り込み実験において、低酸素は高 K+ による 45Ca2+ 取り込み曲線の初期増大相のスロープを小さくしたが、一方、その後のプラトー相を修飾しなかった。初期増大相のスロープは 45Ca2+ 流入速度の指標であり、また後期 プラトー相は交換可能な Ca2+ プールの大きさを示すとされていることから、これらの結果は、低酸素が高 K+ による 45Ca2+ 流入の速度を遅延させ、一方、交換可能な Ca2+ プールの大きさに影響しないことを示唆している。高 K+ による 45Ca2+ 流入の速度は主として電位依存性 Ca2+ チャネルを介する 45Ca2+ 流入速度を反映するとされているから、Ca2+ チャネルの機能が低酸素により障害されたと考えられる。 電位依存性 Ca2+ チャネルを介する Ca2+ 流入抑制の正確な機序は、現時点において不明である。

 これらの知見は、低酸素が副腎クロマフィン細胞からの高 K+ によるカテコラミン遊離を抑制し、そしてこの抑制は低酸素曝露が K+ による電位依存性 Ca2+ チャネルを介する Ca2+ の流入とそれに続く [Ca2+]i の増大を抑制する結果であることを示している。

5)in vivo 低酸素曝露とコリン作動性伝達

脳内エネルギー代謝に影響しない 15% > O > 7 % 程度の低酸素下においても、シナプス伝達は電気生理学的にみて阻害される104)。第一の効果は低酸素曝露中のシナプス伝達遮断であり、第二の効果は低酸素曝露後の過興奮性である。第一の効果は、生化学的知見からみて、低酸素がシナプス前終末における ACh を含む多くの神経伝達物質の生合成を阻害したことによると考えられる。第二の効果の基礎となる知見として、虚血が数種神経伝達物質の受容体のアップレギュレーションおよびユニークな第二メッセンジャー系のホスホイノシタイド(PI)回転を活性化すると報告されている。また、mAChR は脳内における主要な AChR であり、その活性化が (おそらく M1)PI 回転に供役することはすでに確立されている。in vivo 低酸素曝露と PI 回転、mAChR に対する[H]-quinuclidinyl benzilate(QNB)結合、ならびに各種シナプス前終末に存在するとされる nAChR に対する (-)-[H]-ニコチン結合との相関を検討した104)105)

ラットを一過性(30 分)の低酸素に曝露した場合、緩和な曝露(10% O, 90% N)によっては変化は見られず、過度の曝露(5% O, 95% N)により変化が生じた104)。検討した大脳皮質、線条体、海馬、小脳の4部位すべてにおいて、[H]-イノシトールのイノシトール燐酸類 (IPs)への基礎的取り込みは過度の低酸素曝露により増大し、以後 48 時間高いまま維持された。この増大は、外液 Ca2+ 除去により消失したところから、外液 Ca2+ の存在に依存するようである。一方、カルバコールによる mAChR 刺激を介する同取り込み増大は海馬においてのみ見られたが、この増大は外液 Ca2+ 除去により消失しなかった。低酸素曝露の程度、時間とも神経伝達および脳のエネルギー代謝を障害するのに十分な条件である。低酸素/虚血によるエネルギー障害が種々の生化学的異常を生じ、それがニューロンの恒常性を乱すことはよく知られており、おそらく最も有害な異常は損傷された細胞膜を介する Ca2+ 流入過多であり、その結果細胞質 Ca2+ は増大することになる。PI 回転の活性化により細胞内 Ca2+ が増大することは確立されているが、同活性化と細胞内 Ca2+ 濃度の相関は複雑であり、[H]-イノシトールの IPs への基礎的取り込みの増大は、損傷された細胞膜を介する Ca2+ 流入の増加によって生じたと考えられる。この思考は、脳のエネルギー代謝を損傷しないことが確立されている緩和な低酸素曝露が同取り込みを変化させなかった事実により裏づけられる。

上述のように、海馬における [H]-イノシトールの IPs への基礎的取り込みならびにカルバコールによる取り込みの増大は、いずれも一過性かつ過度の低酸素曝露により増加し、カルバコールに反応した増加は、その後の大気曝露においても6時間のあいだ持続し、外液中の Ca2+ の存在の有無とは無関係であった。[H]-QNB 結合実験において、同結合の Bmax 値は、カルバコール刺激に応ずる変化の時間経過と類似して、一過性、過度の低酸素曝露により増加した。これはカルバコール刺激による PI 回転の増大が Ca2+ 流入の増加によるものではなく、mAChR の数の増加の結果であることを示している。6時間以上にわたる長期の緩和な低酸素曝露も、海馬に限局した [H]-QNB 結合能の増加とともに、 PI 回転に及ぼすカルバコール刺激の増加効果を伴った。しかし、この効果は一過性であり、何らかの適応が、少なくとも緩和な低酸素条件下において、生じていると思われる。この程度の緩和な低酸素条件下においては、血液の pH、 pO、pCO を含む生理学的諸指標は、初めの 24 時間のあいだは急速な変化を示すが、その後、おそらく心血管系および呼吸系の適応の結果として、安定化されると考えられる。低酸素曝露後に、ラット線条体の GABA 受容体、心筋のアドレナリン性β-受容体、心筋の mAChR の数は増加するという。本実験の結果は、脳における mAChR の数の低酸素曝露による増加の最初の証拠を示したこととなる。海馬において、 mAChR はシナプス後膜に存在し、CA1 錐体のニューロンに比較的高濃度の mAChR が見られるという。CA1 錐体のニューロンの虚血後の過興奮性が報告されており、それは選択的な脆弱性といわゆる遅延性のニューロン死を生じる主要な要因とみなされている。PI 回転の活性化は細胞内 Ca2+ とアラキドン酸産生の増大を生じ、両物質とも異常な高水準において細胞死を生じる。これらの知見を勘案すれば、低酸素誘起の mAChR と供役した PI 回転の増加は、基礎的回転における増加と相まって、低酸素後あるいは虚血後の過興奮性ならびにニューロン障害をもたらす主要な因子になりうると考えられる。

Shimohama らの方法106)にしたがって、[H]-ニコチン結合実験を行った105)。大気曝露の対照群ラットの視床膜標品に対する [H]-ニコチン(2.5〜175 nM)結合の Scatchard 解析は、高親和性および低親和性の二つの部位を示した。高親和性結合部位が nAChR であることは、意見が一致している。 50 nM の [H]-ニコチンを用いた場合、低酸素(10% O, 90% N)3、6、12 時間曝露では対照に比して海馬、視床において低下し、その後対照値まで回復する傾向を示した。大脳皮質においても低下傾向を示した。尾状核、線条体、淡蒼球、小脳において変化を生じなかった。視床膜標品において、低酸素6時間曝露は高親和性結合部位の VMAX を減少した。脳における nAChR の局在の詳細は不明であるが、カテコラミン性神経などの終末に存在し、カテコラミンなどの神経伝達物質の合成、遊離、代謝などの調節に関与している。したがって、[H]-ニコチンの高親和性結合部位の数の減少は、低酸素環境下におけるこれらの神経伝達異常に関与する可能性があるといえる。

Fujiwara らは、さらに末梢性コリン作動性伝達に関与する nAChR および mAChR の結合特性の検索にも歩みを進めている107)108)。 [H]-ニコチンをリガンドとして用いたラット胃底部膜標本に対する飽和結合実験の解析107)は、同結合が飽和性、可逆性であり、高親和性、低親和性の二つの結合部位の存在を示した。高親和性結合部位の最大結合能は、検討した4部位において不均一性を示した。胃底における [H]-ニコチン結合を抑制するコリン性薬物の IC50 値は、(-)-ニコチン>シチジン> ACh >>カルバコール>> C >>> α-ブンガロトキシン = d-ツボクラリンの順位であった。これらの性質はヒト脳におけるそれ106)に類似していた。nAChR の存在部位は平滑筋内神経叢内の神経節細胞、あるいはシナプス後交感神経終末と想定される。[H]-QNB を用いた mAChR の結合実験の結果は従来の知見を支持するものであった。コリン作動性軸索終末密度の指標とされるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性は、 AChR とは異なって、胃全体に均一に見出され、部位差を示さなかった。さらに、横隔膜下位迷走神経切断108)は、[H]-ニコチンの高親和性結合部位の最大結合能を胃各部において増大し、一方低親和性部位のそれは偽手術例の水準にとどまった。副交感神経節に局在する nAChR 密度の増大によると考えられる。他方、[H]-QNB 結合は迷走神経切除後も変化しなかった。また、ChAT 活性は、おそらくコリン作動性節前ニューロンの変性の結果として、減少した。

 脳104)-106)および末梢自律神経節107)108)における nAChR に関する知見のうえに立って、 nAChR の性質および供役する情報変換機構をさらに明らかにするためには、より単純な、そして均一性のある培養副腎髄質クロム親和細胞系がよいモデルたりうるかどうかを検討する必要があると判断された。

6)リガンド結合法を用いた培養ウシ副腎クロム親和細胞の nAChR の性格と低酸素曝露

[H]-ニコチンのフィルターを用いる従来の測定法を改良した109)。[H]-ニコチンの無処置ガラスファイバーフィルターへの結合は、膜画分への特異的結合の検出を妨害した。ガラスファイバーフィルターを、初期段階に用いられていた濃度の 60 倍以上の、3% あるいはより高濃度のポリエチレンイミン液に、前もって少なくとも5時間浸すと、フィルターへの結合をバックグラウンド水準まで減少しえた。膜画分への特異的 [H]-ニコチン結合は、膜画分を Ca2+ および Mg2+ フリー緩衝液(EDTA, EGTA およびプロテアーゼ抑制薬添加)に浸した場合のみ、検出しえた。これらの処置はいずれもプロテアーゼ活性を抑制することが知られており、副腎クロム親和細胞上の高親和性結合部位は、膜標本作成時のプロテアーゼ類による蛋白分解に感受性であると考えられる。これらの結果は、脳の膜上のニコチン結合部位の結果とは対照的である。脳において、高親和性 [H]-ニコチン結合部位は緩衝液の種類にかかわらず検出可能であり、二価陽イオンを含みプロテアーゼ抑制薬を含まない場合に、低親和性の第二の結合部位が検出される。脳および副腎クロム親和細胞の膜上の高親和性結合部位は、蛋白分解に対する感受性において相互に差があるようである。この系において、特異的 [H]-ニコチン結合は飽和性を示し、また可逆性であった。解析は単一の高親和性結合部位を示した。K は脳のそれに近く、 Hill 係数は 1 に近かった。コリン性薬物の結合抑制順位は、ニコチン>ロベリン> DMPP >カルバコール>>> d-ツボクラリン> C>>> α-ブンガロトキシンであった。 C の特異的結合抑制に関する抵抗性は、C が nAChR のイオンチャネルに直接作用してニコチン性自律神経節伝達を遮断するためと考えられる(図-1参照)。これらの結果は、脳におけるものとよく一致する。副腎クロム親和細胞の nAChR の ACh 結合部位は、脳の膜上にあるものと類似の性格を有すると考えられる。

低酸素の影響に関して110)、無傷の副腎クロム親和細胞に対する [H]-ニコチン結合を検討したところ、0% O/100% N ガスにより飽和した栄養液中における特異的 [H]-ニコチン結合は、対照の 21% O/79% N の場合に比し、[H]-ニコチンの 20 nM までの低濃度範囲において抑制されたが、一方、それ以上の高濃度において同一のプラトー水準に達した。K 値が増大し、Vmax は無変化ということになる。この効果は、 [H]-QNB 結合能に変化は見られないから、特異的作用といいうる。膜画分を用いた [H]-ニコチン結合の場合は変化を示さなかった。これは、K 値の増大が低酸素の nAChR あるいは膜そのものに対する直接の作用の結果によるものではなく、細胞内の何らかの変化の結果であることを示唆している。副腎クロム親和細胞上の nAChR の活性は、副腎髄質を活性化するストレス刺激により制御されていると考えられる。

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ニコチンと神経ペプチドI ヴァゾプレシン

1)はじめに

Imura, Nakao らは神経ペプチドに関する研究を精力的に進めてきた。下垂体後葉ホルモンのヴァゾプレシン(AVP)の分泌は喫煙により亢進し、この亢進は脳内の nAChR を介する作用と考えられている。 AVP 分泌には脳内の種々の神経伝達物質および神経ペプチド類が関与している111)。近年の免疫組織学的研究は、AVP とプロエンケファリンB 由来のオピオイドペプチド類の視索上核および室傍核の巨大細胞性ニューロンにおける共存を明らかにした112)。ロイモルフィンはプロエンケファリン B 由来の内因性オピオイドペプチドであり113)114)、下垂体その他の脳に存在し115)116)、その分布はダイノルフィンのそれとほぼ一致する117)。また、ロイモルフィンはκ-受容体に対する作動物質であり118)、プロラクチン分泌を強力に刺激する119)。ラット側脳室内投与は強力な飲水抑制作用を示し120)、脳内における水電解質調節に関与している可能性がある。

2)ロイモルフィンと AVP 分泌

無麻酔、無拘束下ラットにおいて58)59)121)、血漿 AVP 対照値は 0.7 pg/ml であった。i.c.v.投与の場合、ニコチン 10 mg は投与 1.5 分後において軽度に、 20 mg は著明に血漿 AVP 水準を増加した。i.v. 投与の場合、ニコチン 20 mg は投与 1.5 分後無作用、100 mg は著明に AVP を分泌した。 i.p. 投与の場合、ニコチン 0.5 mg/kg は無作用、1.5 mg/kg は AVP を著明に分泌した。i.p. 投与の場合、作用持続は i.v. 投与に比し、やや長かった。 AVP を分泌する用量のニコチンは、いずれも著明な行動変化を伴った。また、i.c.v. 投与のカルバコール 50 pmol およびアンジオテンシン II (A II)100 pmol も AVP を著明に分泌した。さらに、72 時間の飲水制限は血漿 AVP 水準を著明に増加した。

i.c.v. 投与のロイモルフィン 60, 600 pmol は、AVP 分泌の基礎値を抑制するのみならず、600 pmol 前処置はニコチン(1.5 mg/kg, i.p.)による投与5分後の誘発性 AVP 分泌を抑制した。この抑制は i.p. 投与 10 分、20 分後においても認められた。ロイモルフィン前処置は、ニコチンによる行動変化を修飾しなかった。さらに、ロイモルフィン 60, 600 pmol は用量依存性にカルバコール(50 pmol, i.c.v.)、および 72 時間の飲水制限による誘発性 AVP 分泌を抑制した。さらに、ロイモルフィン 6, 60, 600 pmol は用量依存性に A II(100 pmol, i.c.v.)による誘発性 AVP 分泌を抑制した。ロイモルフィンの基礎的ならびに上記誘発性 AVP 分泌抑制作用は、i.c.v. 投与のロイモルフィンが基礎血圧および A II に対する昇圧応答を抑制するところから122)、血圧上昇に対する反射性応答の結果によるものではない。

一方、オピオイド拮抗薬のナロキソン(0.5 mg/kg, i.v.)の単独投与は AVP 分泌の基礎値を増加するのみならず、その前処置は、ロイモルフィン 60 pmol の基礎的 AVP 分泌水準に及ぼす抑制作用を投与後5分の時点において減弱するとともに、i.c.v. 投与のカルバコール 50 pmol による誘発性 AVP 分泌を投与後 1.5 および5分の2点において増強した。これは、関与するオピオイド受容体が緊張性に機能していて、ロイモルフィンそのほかのプロエンケファリンB 由来のオピオイドペプチド類が AVP 分泌を抑制性に制御している可能性を示している123)。ナロキソンは血圧の基礎値に影響しなかったが、カルバコールに対する昇圧応答を増強した。したがって、ナロキソンの AVP 分泌増加作用は血圧減少に対する反射性応答の結果によるものではない。カルバコールに対する昇圧応答の増強作用は、おそらく、AVP 分泌増強の結果による。ラット視索上核切片を用いた電気生理学的検討の結果、ロイモルフィン10-7 M は AVP 含有ニューロンの自発放電神経活動を抑制する124)。また、ラット視索上核において、AVP 神経分泌細胞の大部分は nAChR を介して興奮するという。これらの結果は、AVP とプロエンケファリンB 由来のオピオイドペプチド類の視索上核の巨大細胞性ニューロンにおける共存112)を勘案すれば、ニコチンは巨大細胞性ニューロンの nAChR を介して AVP とともにプロエンケファリンB 由来のオピオイドペプチド類を分泌し、分泌されたオピオイドペプチドは AVP 含有ニューロンの神経活動を抑制して、AVP 分泌を抑制性に制御している可能性を示唆している。

さらに、ナロキソン(0.5 mg/kg, i.p.)前処置はまた、ロイモルフィンの A II による AVP 分泌増大に及ぼす抑制作用を消失させた。ナロキソン(0.05 mg/kg)は無作用であった。上述のように、ロイモルフィン 6, 60, 600 pmol は用量依存性に A II(100 pmol, i.c.v.)による誘発性 AVP 分泌を抑制するから、この抑制にかかわるオピオイド受容体もまた緊張性に機能している可能性が高い123)。ロイモルフィンの A II による AVP 分泌に及ぼす抑制作用は、カルバコールによる AVP 分泌に及ぼす抑制作用にくらべより大きかった。一つの可能性として、ロイモルフィンが中枢性レニン-アンジオテンシン系と関連して AVP 分泌を制御している主要因子とも考えられる。

降圧を生じるようなやや高濃度のモルヒネ、β-エンドルヒンなどは AVP 分泌を促進するとされているが、この促進は降圧などを介する間接的作用によると考えられる。ロイモルフィンの AVP 分泌抑制作用は、やや低濃度のμ-作動薬のβ-エンドルヒン、δ-作動薬のロイシンエンケファリン、κ-作動薬のダイノルフィンなどのエンドルフィン類の作用に類似する。これは AVP 分泌制御に多様なオピオイド受容体が関与していることを示唆している。しかし、ロイモルフィンの AVP 分泌抑制作用は β-エンドルヒン、ロイシンエンケファリンにくらべより強力であり、ダイノルフィンの作用強度に一致し、またその5分という作用発現時間はβ-エンドルヒンの 30 分にくらべより速い。さらに、ロイモルフィン、ダイノルフィン、ネオエンドルフィンは同じ前駆物質から生じ、視索上核、室傍核の巨大細胞性ニューロンにおいて AVP と共存112)するとともに、これらオピオイドペプチドが高親和性をもって結合するκ-受容体がラット視床下部、脳下垂体に存在すると報告されている。これらの知見を勘案すれば、関与する受容体はκ-受容体であると予測しうるが、厳密な証明は今後の問題である。末梢投与のロイモルフィンは無作用であるところから、作用点は脳内にあるといえる。

ロイモルフィンの AVP 分泌に及ぼす強力な抑制作用は、強力な抗口渇作用、降圧作用と相まって59)120)122)、ロイモルフィンそのもの、あるいはそのほかの内因性オピオイドペプチドと共同して、水分の恒常性および血圧の中枢性制御に関与していることを示唆している。

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ニコチンと神経ペプチド II 心房性ナトリウム利尿ポリペプチド

1)はじめに

心房性ナトリウム利尿ポリペプチド類(ANPs, atrial natriuretic peptides)は、強力な利尿、ナトリウム利尿および血管弛緩などの性質をもった血管活性ペプチドファミリーに属し、ヒトおよびラット心房から単離され、水分、電解質バランスと血圧の制御に関与するとされてきた125)-128)。α-ヒト ANP(α-hANP)および α-ラット ANP(α-rANP)を等しく認識する α-ANP に対する放射免疫法を用いて129)、ANP は心臓から分泌され、ホルモンとして体内を循環することが明らかにされている130)131)。さらに、α-ANP 様免疫活性は、脳132)133)、脊髄と自律神経節134)、腎臓135)および肺136)などの心房外組織に広く分布する。クロマトグラフィーを用いた解析は、ラット中枢神経系における ANP の分子形態が心臓におけるそれとは異なっており、脳および脊髄における ANP の主要形態が低分子重量型をとり、その主要要素はα-rANP-(4-28)、α-rANP-(5-28) であることを示した132)-134)137)。中枢神経系において、ANP はまた水分および食塩摂取133)138)、A II に対する昇圧応答133)、AVP139)および ACTH133)分泌、ならびに中枢性ドパミン系140)などに抑制効果を及ぼす。α-hANP は、体液恒常性および血圧の中枢性制御に一つの神経ペプチドとしての役割を演じていると考えられる。

 2)ニコチンと ANP

末梢系においても、ANP は交感神経系機能に関与しているとされる141)。さらに、免疫組織学的研究は ANP が副腎髄質に存在することを示している142)143)。ウシ副腎において、異なった特異性を有する2種の放射免疫検出法を用いて、α-hANP 組織含量およびその性質を検討した144)。初めは心臓ホルモンとして単離され、その後、神経ペプチドとして中枢神経系中にも存在137)の認められた ANP であるが、かなりの量の α-hANP 様免疫活性が副腎髄質に存在した。しかし、一方、皮質にはみられなかった。ウシ副腎髄質の ANP 含量はラット脳132)あるいは脊髄134) のそれよりは高く、ヒトあるいはラットの心室のそれに匹敵した145)146)。α-hANP に対する2種の異なった検出法は、副腎髄質における α-hANP 様免疫活性に関して、実質的に同じ組織含量およびクロマトグラフィーパターンを示した。

高速ゲル濾過クロマトグラフィーおよび放射免疫検出法と組み合わせた逆相高速液体クロマトグラフィーを用いて以前に報告されたところでは、ラット心臓の ANP はほとんどすべてが高分子重量型のγ-rANP であり、一方、ラット中枢神経系の ANP の主要成分は低分子型の α-rANP-(4-28) および α-rANP-(5-28) であった132)134)135)137)。この結果から、著者らはニューロン中の ANP は心臓細胞におけるそれとは異なった翻訳後のプロセッシングにより生じたものであると提案してきた133)。高速ゲル濾過クロマトグラフィーを用いた解析の結果、ウシ副腎髄質において、α-hANP 様免疫活性は、それぞれ、γ-ANP およびα-ANP に相当する高および低分子重量型の2種の成分からなり、その平均比率は2:1であり、心臓および脳のあいだの中間パターンに属するものと考えられた。さらに、逆相高速液体クロマトグラフィーを用いた解析によれば、副腎における低分子型のα-hANP 様免疫活性は、合成のα-hANP-(5-28) および α-hANP と同時移行する2種の主要成分からなっている。ウシα-ANP のアミノ酸配列は α-hANP のそれと同一であるから147)、これら逆相高速液体クロマトグラフィーにおける2種の主要成分はα-hANP-(5-28) およびα-hANP である可能性がきわめて高い。かくして、ウシ副腎髄質における ANP のプロセッシング機構は、心臓あるいは中枢神経系におけるそれとは異なり、中間型を示した。これはまた、共通の ANP 前駆物質の組織特異性のプロセッシング機構の可能性を示唆するものかもしれない。

培養ウシ副腎クロマフィン細胞をニコチン 10-5 M に曝露すると、クロマフィン細胞からアドレナリンおよびノルアドレナリンと同時にα-hANP 様免疫活性が液中に遊離される。ニコチンは副腎髄質細胞のクロマフィン顆粒に貯蔵されているカテコラミン遊離を刺激するから、ニコチンによりカテコラミンと同時に遊離される ANP もまた、オピオイドペプチドのような神経ペプチドと同様に、クロマフィン顆粒に貯蔵されていると考えられる。

 副腎髄質における ANP の役割に関しては、交感神経系において抑制性の役割が示唆されているところから141)、副腎髄質クロマフィン細胞からのカテコラミン分泌の抑制性制御に関与していると考えられる。

従来、ポンプ器官にすぎないとされてきた心臓から、ANP が分泌されるとの発見以来126)、 ANP の研究は見事な広がりと深さを増しつつ、急速に進展しつつある。1994年の時点において、少なくとも3種類の内因性リガンドすなわち ANP、BNP(brain natriuretic peptide)148) および CNP(C-type natriuretic peptide)149)、ならびに3種の受容体、NPR-A、NPR-B および C150) が同定され、ナトリウム利尿ペプチド系による巧みな血圧・体液量調節機構の存在が明らかになりつつある150)151)表-1に伊藤、中尾によるナトリウム利尿ペプチドの薬理作用152)を引用しておく。より詳細な内容については文献152)-155)などの綜説類を参照し、また、そのほかのImura, Nakao グループのナトリウム利尿ペプチドに関する膨大な原著は、上記文献から辿っていただきたい。

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おわりに

1994年までの、「神経伝達に及ぼすニコチンの影響」に関する文献を通覧するとともに、各研究者グループの研究業績を位置づけたのち、長年にわたってニコチンと神経伝達との相関に関する研究を行ってきた数グループの研究業績について概説した。喫煙科学研究財団が発足してすでに10 年が経過した。しかし、10 年を1日とみれば、日暮れて、道はまだ遠い。今後のさらなる知見の集積に期待したい。

*1横浜市立大学医学部薬理学教室

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Smoking Reserch Foundation